2021 立春 春一番離れぬやうに影法師 太田玲子 春一番の風の強さがよく伝わってくる。影も吹き飛ばされないようにひしとしがみついている。もう一つの人格があるような影法師。(椋87号より)
2021 大寒 凍川に倦みて鳥どち争へり 曳地トシ 「凍川に倦みて」と断じたことによって自ずから鳥同士の争いの様子がありありと見えてくるのである。(椋75号より)
2021 小寒 川音もくらしの音も寒に入る あかね雲 ありふれて見える日常の中で季節は確実に進んでゆく。そのさりげない変化を五感で感じ取っている。(椋93号より)
2020 冬至 別荘に人戻りくる年の暮 蓬子 これが夏の避暑だったらあまり面白くはなさそうだ。むしろふだん住む場所より不便で寒いのに、まとまった休みがとれて、薪などを割っている。そんな風情が面白い。(椋87号より)
2020 大雪 わすれ水雲をうつして冬田かな 小杉健一 冬ざれの田面。ところどころに水たまりが冬空を映している。情景描写に「わすれ水」という言葉の詩情がマッチして余情のある句になった。(椋92号より)
2020 小雪 次の声なくて梟とは云へず 小関菜都子 ゴロスケホーホーと鳴く梟。「ホホ」とつぶやくような声がしたのはたぶん梟だと耳をいくら澄ませてももう聞こえない。森の闇の深さを感じさせる。(椋92号より)
2020 立冬 茶の花の開き放題まだ泣ける 棚網 鮎 茶の花がほろほろと惜しげなく散る。涙もまたとめどなく零れるもの。飛躍のある表現で心情をにじませた。(椋92号より)
2020 霜降 たはぶれに居どころ聞かむ冬隣 岡 みやこ 今どこに暮らしているのかと、別に訪ねるつもりもないが聞いてみる。冬が近づいてくる頃の人恋しさもあるだろうか。(椋85号より)
2020 寒露 バックオーライバックオーライ木の実落つ 市川 英一 何だか木の実に「バックオーライ」と声をかけているようにも思えてくるのが面白い。晩秋の明るく澄んだ大気も感じられてくる。(椋86号より)
2020 秋分 窓広く栗の渋皮剝いてゐる 宇野 徳 リビングル-ムでのんびりと渋皮を剝いているのだろう。「窓広く」というあっさりとした描写が見えるものを多くしている。(椋91号より)
2020 白露 金木犀テレビを消せば雨のおと 後閑 達雄 五感が次々と働いている。下五の「雨の音」に作者の心情がうかがわれる。(椋79号より)
2020 処暑 おしろいの花や釣舟仕立てます 山田 澪 おしろいの花は郷愁を誘う親しい花。「釣舟仕立てます」と、看板でも立っていたのだろう。情景が良く浮かんでくる的確な配合。(椋91号より)
2020 立秋 覚えなき写真一葉天の川 中西 碧 なぜここにこんな写真が紛れ込んだのだろうといぶかしむ。少女の頃の写真だろうか。まったく記憶にない自分。天の川の取り合わせがいい。(椋91号より)
2020 大暑 帰る日を何処に帰るのだろう夏 水原 節子 生家に帰省して自宅に戻るときの感慨でもあるだろうし、もっと根源的な思いでもあるかもしれない。夏だからこそそんな思いにとらわれるのだ。(椋90号より)
2020 小暑 図書館にけふもこもりぬ青胡桃 飯沼 瑤子 暑い日中、涼しくて静かな図書館で過ごすことにしているのだろうか。青胡桃の取り合わせがいい。(椋90号より)
2020 夏至 夏燕コリアタウンを翔けにけり 真鍋 千枝子 すっきりした句。コリアタウンという響きが明るく、燕の往き交う町の活気が伝わってくる。(椋89号より)
2020 芒種 人去りてガーベラふいに回りけり 味八木 恭子 頭の重いガーベラは、かすかな空気の動きに花生けの中で回ったのだろう。あまるでグラスに差したストローのように。都会的な詩情。(椋90号より)

2020 小満

窓一つ残して花舗の蔦青し ぱんだ 蔦に覆われた花舗。整えすぎぬセンスの良さを想像させる。巧みな写生と言えるのではないか。(椋89号より)
2020 立夏 雨傘にをさまるからだ薔薇を見る 瀬名 杏香 やや硬質な叙情。傘に隠れるような心持ちだろうか。繊細さを感じさせた句だ。(椋88号より)
2020 穀雨 明け方の月まどかなる穀雨かな 立本 美知代 穀雨という季語の使い方は難しい。雨のことではなく、二十四節気の一つで晩春の時候の季語だ。まどかな朝の月が穀雨とよく響き合う。(椋88号より)
2020 清明 風車吹くひと色となるふたり 白石 正人 風車は回れば色がまざり合って一つになる。そのことと二人の人物の睦まじい様子とを重ね合わせている。句またがりの調べがいい。(椋88号より)
2020 春分 桜蕊降れば泪をふく男 佐々木ヒロシ どういうことなのか。まったく関連のないことなのだが、印象に残った句である。花過ぎの感傷に浸っているのは若くない男に違いない。(椋82号より)
2020 啓蟄 さらさらと葉蘭に雪やお白酒 藤井 紀子 思わぬ降りとなった春の雪が葉蘭を滑り落ちる。さり気なく美しい情景で、雛祭の頃の変わりやすい気象が思われる。(椋88号より)
2020 雨水 花種を蒔いてどこにでも行ける 岡 みやこ するべき事を終えて、あとは待つだけ。そんな心の軽さが伝わってきた。(椋81号より)