2021 寒露 灯のつくる薄暗がりや木の実落つ あをね 灯を点すと影が生まれる。その影に秋の森の深さを感じている作者。繊細な心象風景である。(椋97号より)
2021 秋分 虚栗こんなはずではなかつたに 山辺央子 拾ったら中身は空っぽ。「こんなはずじゃなかった何か」がいろいろに想像されてくるが、ユーモラスであるゆえに悲壮感はない。(椋91号より)
2021 白露 秋草やテーブルの影椅子の影 せいじ 「秋草や」で情景がどこまでも広がってくる。テーブルと椅子の影を言ったことで、秋に入った日差しの衰えを感じさせた。(椋97号より)
2021 処暑 とをあればとをの名前や草の花 矢崎めぐみ 雑草にも一つ一つ名前があり、個性がある。それらの草花に心を寄せている。平仮名表記もいい。(椋97号より)
2021 立秋 見おろせば水かがやきぬ今朝の秋 森 木聖 沼か湖か川面か、そういった説明を省いたために、ただただ秋の澄んだ水であることを思わせた。(椋90号より)
2021 大暑 目瞑れば耳冴えて蝉落ちる音 ザジ 蝉が落ちるときの羽ばたきやジジジーという声。五感の一つを塞いだとき、聞こえるはずのない距離なのにその音がはっきりと聞こえた感じだ。(椋90号より)
2021 小暑 マスクにも白髪にも馴れ日傘かな 村上 典美 自粛期間中、美容院にも行くことができず、髪を染めるのをやめたという人も多いようだ。しみじみと共感させられる。(椋95号より)
2021 夏至 夏祓昼の灯影の濃かりける 田中 英花 梅雨時の闇に灯されるあかりに生まれる影は濃密だ。夏祓の行事の一切を想像させている。(椋89号より)
2021 芒種 我の背を打ちたる梅も拾ひけり 佐藤 緑子 竿で木の枝を叩くとたわわに実った梅がばらばらと零れる。梅を収穫している情景を臨場感豊かに描いた。(椋95号より)
2021 小満 君の目の球体に閉づ柿若葉 味八木 恭子 「球体に閉づ」という体の一部の感覚と、「君」という年下の人物を思わせる呼び方が、柿若葉の輝かしい未来を感じさせる季語と実によくマッチしている。(椋95号より)
2021 立夏 ねぢ巻けば秒針かろし夏はじめ 佐々木ヒロシ 手巻き時計どころか、時計を持つことも少なくなった。「夏はじめ」の取り合わせが、青春時代への回想を誘う。(椋89号より)
2021 穀雨 ていねいに米研ぎをれば遠蛙 熊谷 かりん いつもより少し心のゆとりがある。そんなときには遠蛙の声にも耳を傾けている。(椋94号より)
2021 清明 ぶらんこをふはりとおりて姉妹 今田 裕子 「ふはりと」に姉妹のいでたちや年頃などを想像させられる。春らしさのある句だ。(椋94号より)
2021 春分 ポケットの浅きもたのし春コート 瀬名 杏香 なるほど冬のコートならポケットが深そう。軽快で瑞々しく、こちらまで心が弾んでくるようだ。(椋93号より)
2021 啓蟄 マラソンの出発点のミモザかな 守屋 さつき ミモザの黄色からスタートしたランナーが街の風景を繰り広げてゆく。光を感じる句。(椋94号より)
2021 雨水 引く波に砂の耀く鰆東風 市川 薹子 鰆東風という春浅い頃の風を存分に感じさせてくれる浜辺の情景である。鏡のような砂浜だろうと思う。(椋93号より)
2021 立春 春一番離れぬやうに影法師 太田 玲子 春一番の風の強さがよく伝わってくる。影も吹き飛ばされないようにひしとしがみついている。もう一つの人格があるような影法師。(椋87号より)
2021 大寒 凍川に倦みて鳥どち争へり 曳地トシ 「凍川に倦みて」と断じたことによって自ずから鳥同士の争いの様子がありありと見えてくるのである。(椋75号より)
2021 小寒 川音もくらしの音も寒に入る あかね雲 ありふれて見える日常の中で季節は確実に進んでゆく。そのさりげない変化を五感で感じ取っている。(椋93号より)
2020 冬至 別荘に人戻りくる年の暮 蓬子 これが夏の避暑だったらあまり面白くはなさそうだ。むしろふだん住む場所より不便で寒いのに、まとまった休みがとれて、薪などを割っている。そんな風情が面白い。(椋87号より)
2020 大雪 わすれ水雲をうつして冬田かな 小杉 健一 冬ざれの田面。ところどころに水たまりが冬空を映している。情景描写に「わすれ水」という言葉の詩情がマッチして余情のある句になった。(椋92号より)
2020 小雪 次の声なくて梟とは云へず 小関 菜都子 ゴロスケホーホーと鳴く梟。「ホホ」とつぶやくような声がしたのはたぶん梟だと耳をいくら澄ませてももう聞こえない。森の闇の深さを感じさせる。(椋92号より)
2020 立冬 茶の花の開き放題まだ泣ける 棚網 鮎 茶の花がほろほろと惜しげなく散る。涙もまたとめどなく零れるもの。飛躍のある表現で心情をにじませた。(椋92号より)
2020 霜降 たはぶれに居どころ聞かむ冬隣 岡 みやこ 今どこに暮らしているのかと、別に訪ねるつもりもないが聞いてみる。冬が近づいてくる頃の人恋しさもあるだろうか。(椋85号より)