2022 立夏 放課後の廊下は長し夏始 せいじ 言われてみれば確かにそんな感じがしていたと振り返る。明るく躍動感のある季節を象徴するようで季節の取り合わせもいい。(椋88号より)
2022 穀雨 戦争を知らぬ老人豆の花 市川 英一 ハッとさせられたのは、戦争を知らない子どもたちと言われた世代が七十代に入った事実。豆の花に象徴されるのは穏やかな日常。その危うさにふと立ちすくむ。(101号)
2022 清明 ふらここを止めてはじまる紙芝居 古宮 ひろ子 公園などでの紙芝居の思い出はもう遠くなったが、紙芝居そのものは健在。遊具から急いで降りて集まってくる子供たちを見るとほっとする。(椋99号より)
2022 春分 髪の毛のいとうるさくて彼岸西風 亀井 千代志 かき上げてもかき上げても顔に髪がかかる。おかしみがあって。涅槃西風の句として異色。(椋9号より)
2022 啓蟄 野蒜引くおばけ煙突あつたねと こごみ 子供の頃の思い出を語り合いながら摘草をしている。お化け煙突はなくなったが、原っぱは残っていた。童心に返ったような思い。(椋100号より)
2022 雨水 うべなひて無為にゐること椿落つ 鈴木 しずか 自粛せざるを得ない月日。親しい人たちの顔も長いこと見ていない。それを受け入れて過ごす作者の諦観というか、達観。(椋99号より)
2022 立春  梅早し日曜のしづけさに似て 山音 さり気ないが、作者の心情が伝わってくる。上五から中七以下への展開がいいのだ。作者にとっては一人で吟行する日々が続くが、それもまたよしという豊かな思いがある。(椋99号より)
2022 大寒 おもざしの胸にとどまる冬の梅 吉田 信雄 冬の梅といえば寒紅梅だろうか。その花から浮かんでくる面差しを懐かしむ。(椋93号より)

2022 小寒

鈍雲のはざまの青し水仙花 西田 邦一 うすら寒い空の色に水仙の淡い黄色が引き立つ。冬の北陸の空を想像した。(椋93号より)
2021 冬至 白髪の妻のシニヨンクリスマス 津田 ひびき 白髪の美しい人をよく見かけるようになった。この家のクリスマスの準備をしているのは、そんな中の一人。ちょっとした意外性が一句を生き生きさせる。(椋98号より)
2021 大雪 別るとは深く逢ふこと冬の星 内田こでまり 別れとは、その人との関係のみならずその人自身のこと、また己自身のことを深く深く見詰め直す機会なのだと悟っている。苦しくなったときに仰ぐ夜空。(椋98号より)
2021 小雪 綿虫を掴もうとして若やげる 山月 笑い声が聞こえてきそうな臨場感があるのは、下五の連体形に余情があるからだろう。俳句らしい省略の一つである。(椋98号より)
2021 立冬 大根の艶めきにもう負けてゐる ザジ 洗い上げた大根の艶と白さに圧倒されてしまう。野菜の瑞々しい美しさに感じ入った作者のつぶやきである。(椋98号より)
2021 霜降 銀杏散りやまず体内時計ゆるり 小杉 健一 銀杏落葉はあたりを黄金色に明るく染め上げる。寛ぎを感じさせる色に時を忘れて浸った。句またがりの破調に気分がよく出ている。(椋98号より)
2021 寒露 灯のつくる薄暗がりや木の実落つ あをね 灯を点すと影が生まれる。その影に秋の森の深さを感じている作者。繊細な心象風景である。(椋97号より)
2021 秋分 虚栗こんなはずではなかつたに 山辺 央子 拾ったら中身は空っぽ。「こんなはずじゃなかった何か」がいろいろに想像されてくるが、ユーモラスであるゆえに悲壮感はない。(椋91号より)
2021 白露 秋草やテーブルの影椅子の影 せいじ 「秋草や」で情景がどこまでも広がってくる。テーブルと椅子の影を言ったことで、秋に入った日差しの衰えを感じさせた。(椋97号より)
2021 処暑 とをあればとをの名前や草の花 矢崎めぐみ 雑草にも一つ一つ名前があり、個性がある。それらの草花に心を寄せている。平仮名表記もいい。(椋97号より)
2021 立秋 見おろせば水かがやきぬ今朝の秋 森 木聖 沼か湖か川面か、そういった説明を省いたために、ただただ秋の澄んだ水であることを思わせた。(椋90号より)
2021 大暑 目瞑れば耳冴えて蝉落ちる音 ザジ 蝉が落ちるときの羽ばたきやジジジーという声。五感の一つを塞いだとき、聞こえるはずのない距離なのにその音がはっきりと聞こえた感じだ。(椋90号より)
2021 小暑 マスクにも白髪にも馴れ日傘かな 村上 典美 自粛期間中、美容院にも行くことができず、髪を染めるのをやめたという人も多いようだ。しみじみと共感させられる。(椋95号より)
2021 夏至 夏祓昼の灯影の濃かりける 田中 英花 梅雨時の闇に灯されるあかりに生まれる影は濃密だ。夏祓の行事の一切を想像させている。(椋89号より)
2021 芒種 我の背を打ちたる梅も拾ひけり 佐藤 緑子 竿で木の枝を叩くとたわわに実った梅がばらばらと零れる。梅を収穫している情景を臨場感豊かに描いた。(椋95号より)
2021 小満 君の目の球体に閉づ柿若葉 味八木 恭子 「球体に閉づ」という体の一部の感覚と、「君」という年下の人物を思わせる呼び方が、柿若葉の輝かしい未来を感じさせる季語と実によくマッチしている。(椋95号より)