2018 小雪 日が溜まる大根畑の足跡に ふけ としこ 静かな冬の一日をうべなっている。大根も大方収穫されているだろうか。土のくぼみに溜まった日差しの温かさは人の暮らしのぬくもりに重なる。(椋81号より)
2018 立冬 兄弟は多きが良けれ冬に入る 鷲谷 英一郎 親は大変だろうが、年をとったときには、しみじみとこう思うに違いない。離れていても肉親は心の支え。冬を迎える心には特に。(椋80号より)
2018 霜降 猪が出るかもしれぬので先頭 水原 節子 野生動物とは出会い頭が危ない。山道でそんなことを言い合ったのだ。ちょっとした緊張感と山の神秘性。しかし、それがかくのごとき俳句になるとは。 (椋80号より)
2018 寒露 青蜜柑体操服の友だちと 古宮 ひろ子 下五の後に省略がある句。放課後の部活動か何かで分け合って食べた青蜜柑。 (椋73号より)
2018 秋分 水は手を引き寄するもの稲の秋 亀井 千代志 清らかな流れに手を浸すと、まるで引っ張られるように力がかかったのだ。「稲の秋」で豊かな田園の情景が広がってくる。 (椋79号より)
2018 白露 秋水を掬う両手の睦まじく 上條 あきを 自身の右の手と左の手が別の生きもののように睦まじいという不思議な感覚。 掬わんとする水が澄み切っている。 (椋80号より)
2018 処暑 梨食むや内なる川の秘かなる 橘川 昭世 梨のみずみずしさと心の奥底を流れる作者の情感とが、よく響き合っている。「秘かなる」という表現に激しさを感じる。(椋79号より)
2018 立秋 幼子の選ぶスイカを一つ買ふ 松田 康子 幼い子に選ばせた西瓜。子とその祖母だろうか。連れ立って店先に立つ二人の姿が目に浮かんでほほ笑ましい。(椋72号より)
2018 大暑 日盛りや里芋の葉の全方位 古谷 智子 余りの暑さにだらりと葉を下げている様子を、よく描写している。投げ出したような下五の表現がいい。(椋72号より)
2018 小暑 椅子ふたつあれば愉快に青胡桃 岡 みやこ 椅子同士が語らっているかのような面白さ。いるはずの人物は故意に消されている。(椋78号より)
2018 夏至 また今日も夏川を去る別れかな 棚網 かける 何の具体性もないが、妙にドラマティック。夏の終りのさびしさを漠然と感じさせる句である。(椋78号より)
2018 芒種 枇杷の実の下に自転車習ふ人 吉田 信雄 枇杷の実の下と言ったことで、夏の豊かな緑や果実の香気などを感じさせ、新しいことを覚える充実感と響き合った。(椋78号より)
2018 小満 二階へも筍飯をふるまはむ かすみ 二世帯住宅だろうか。「ふるまはむ」に、二階の住人への親しさが感じられ、愛情がにじみ、香り豊かな作品になった。(椋70号より)
2018 立夏 ポケットにコインが一つ更衣 山澤 一帰 何となくポケットに入れて忘れていたコインだろうか。その小さくても確かな重み。夏への期待感としてぴったりだ。(椋77号より)
2018 穀雨 傘立てにいつもある傘春愁 ぱんだ ぽつんと忘れ去られて古ぼけてゆく傘をよく見る。そこに自らの春愁を重ねた。(椋75号より)
2018 清明 対岸もしづかなる昼花菜雨 井上 千恵子 菜の花が一面に咲く頃、春を迎えた安堵が私たちを包み込む。雨の日はなおさら。(椋76号より)
2018 春分 かたはらにゐて欲しき夜の桜かな 山月 随分と素直にいや大胆に言ったものだ。誰に向かって言った言葉なのかは伏せられている。そこが巧み。(椋76号より)
2018 啓蟄 蓬摘む癒えてときをり笑む人と 林田 裕章 これは一つの物語である。その語り口が巧い。病が癒えた人の表情だけでなく、作者自身の深い眼差しが感じられる。(椋76号より)
2018 雨水 君子蘭鏡の国で髪を切る 近藤 千津子 シクラメンと鏡との取り合わせで有名句もあるが、これは美容院の情景なのだろう。「鏡の国」としたのが面白く、また春らしい。(椋75号より)
2018 立春 みつつ鳴きひとつ綺麗な初音かな 太田 玲子 まだ鳴き始めの鶯に耳を傾けていたのだろう。ああ、今のが一番きれいに鳴いたと感じ入った。春の到来を実感した瞬間であるのだろう。(椋76号より)
2018 大寒 古九谷の緑増したり雪あかり くろす ようこ 雪の白さにいろいろなものが黒ずんで見える。その中で古い陶器の彩色が息を吹き返したように力強い。手から手へ受け継がれてきたゆえんだろう。(椋63号より)
2018 小寒 竜の玉夢を聞かれて淋しかり 星野 梨子 どんな夢を見たのかと問われてふと淋しさがよみがえる。貴石のような竜の玉にその心持ちを託した。(椋75号より)
2017 冬至 居心地の良き片隅や竜の玉 あきを 自画像ととってよいだろうか。句会でお会いするあきをさんは物静かな方だ。促されなければ一言も発しないだろう。しかし確とした存在感がある。(椋75号より)
2017 大雪 極月の月命日は晴れにけり 石田 京愛 肉親を失った年も暮れてゆく。雨でも雪でも曇り空でもなく、抜けるような青空が哀しみを伝えてくる。(椋75号より)