2020 啓蟄 さらさらと葉蘭に雪やお白酒 藤井 紀子 思わぬ降りとなった春の雪が葉蘭を滑り落ちる。さり気なく美しい情景で、雛祭の頃の変わりやすい気象が思われる。(椋88号より)
2020 雨水 花種を蒔いてどこにでも行ける 岡 みやこ するべき事を終えて、あとは待つだけ。そんな心の軽さが伝わってきた。(椋81号より)
2020 立春 少しづつ蕾を割りて梅ひらく 曳地 義治 平凡なようでいて、よく見ると「蕾の割れて」ではなく「蕾を割りて」と表現している。それも「少しづつ」だ。そこに早春の息吹と、梅の木の力強さを感じて印象に残った句である。(椋87号より)
2020 大寒 距離おくといふこと水仙を隔て 藤井 あかり 一句の緊迫した調べが、作者の複雑な心情を伝えてくる。硬質な表現を生かしつつ、水仙のかぐわしさに女性らしさがにじんだ。(椋58号より)
2020 小寒 蠟梅を見むとおほかた男坂 佐々木ヒロシ 蠟梅が咲くともう春が近い。それだけに見つければ嬉しく、香りにも惹かれるのだが、近づこうとすると息の切れること。(椋87号より)
2019 冬至 ガレージを開けクリスマスマーケット ぱんだ ガレージのシャッターをがらがらあける音が聞こえるようだ。生き生きと立ち回る人たちが想像される。(椋86号より)
2019  大雪 榾燃えて両肘椅子と丸太椅子 村上 紀子 暖炉のある部屋にまちまちの椅子が置いてある。それぞれが好きなようにくつろぐ時間。そんな心楽しさが伝わってくる。(椋86号より)
2019 小雪 くさめして淋しき人となりにけり 福田 鬼晶 思いきりくしゃみをしたものの、それを笑う人も心配する人もいない。そんなぼやきが聞こえそうな句だ。単純素朴な表現がむしろ効果的である。(椋88号より)

2019 立冬

つれあひと呼ぶ人ありて冬ぬくし くろす ようこ 「つれあひ」は「相棒」のようなもの。苦楽をともにしてきた実感がこもる。何げなく使っている言葉に思わず立ち止まった瞬間。(椋87号より)
2019 霜降 鍵盤のラの音放つ茸かな 山月 ラという音階とイコールではないが、「ラ」と発声するとき開放的な感じがすることと、ピアノの弾き出す音と茸の生え方の唐突なイメージがよく響きあって楽しい句になっている。(椋85号より)
2019 寒露 峰峰に堂宇鐘楼秋曇 内田 こでまり 調べが大らかで、趣深い古刹を抱く深山の景にふさわしい。秋晴れではなく秋曇りなのも、むしろ堂々たる山並みを際立たせている。(椋85号より)
2019 秋分 肩に降る多面体なる秋の陽よ 味八木 恭子 捉えることのできない光というものを多面体と表現して、秋の日差しの透明感を言い得た句ではなかろうか。独創的な作風の人だ。(椋86号より)
2019 白露 露葎静かに牛の立ちにけり かたしま真実 何も言っていない句である。それなのにその存在の哀れさを突きつけられたような心持ちになったのはどういうわけだろう。(椋85号より)
2019 処暑 休田も秋を迎へてをりにけり 近藤 千津子 休耕田というより耕すことを断念した田かもしれない。荒れ地に育つ秋草が丈高く伸び、花をつけている。そのたくましさとひたむきさ。(椋85号より)
2019 立秋 水引草引けば蜘蛛の囲くづれけり 清水 冬芽 道の辺に弧を描く紅色の連なり。思わず触れると、その葉先に蜘蛛の糸がかけてあったという経験は誰にでもありそうな気がする。大気の露けさを感じる。(椋85号より)
2019 大暑 シニヨンをぱらりと解きて髪洗ふ 曳地 トシ シニヨンという洒落た髪形は、長めの黒髪を思わせる。無造作な仕草によく働いた一日を想像した。(椋84号より)
2019 小暑 わたくしと何処にも行けぬ風鈴と 今野 浮儚 こもりがちな「わたくし」なのだろうか。風鈴という無機質なものと向き合っている時間。(椋78号より)
2019 夏至 ブローチをつける空色の夏服 こさみ みさこ 無地の空色ならブローチが映えるだろう。倒置法というか、夏服という名詞ではっきりと切った。新しい季節への期待感が出た。(椋83号より)
2019 芒種 万緑のなかへ帽子を忘れさう 鈴木 しずか 満目の緑の中をゆく。何ものからも解き放たれて飛んでいきそうな心。帽子が唯一の重石である。大らかな調べがいい。(椋83号より)

2019 穀雨

雨風のはげし芍薬いたましき 蓬子 芍薬の花は大きくて、雨風に弱い。ちょうど見頃になった花を惜しむ作者の体温を感じる句だ。(椋77号より)
2019 立夏 鎖骨より夕づくことも更衣 西田 克憲 更衣の句としては異色。たそがれどきを心もとなく過ごしている感じが出ている。(椋77号より)
2019 穀雨 野遊びのやうに野球の女の子 林田 裕章 打球が飛んでこなくて暇なのだろう。女の子もまじる草野球のチーム。ほほ笑ましい情景が見えてくる。(椋82号より)
2019 清明 亀鳴けばコーヒー豆の挽きあがる 森 木聖 亀が鳴くという春の茫洋とした感じに、コーヒーを挽く大きな音。聞こえるはずのない音に、現実の音が重なっていく。関連はないのに、どこかで響き合う。(椋82号より)
2019 春分 相輪をつらぬく塔や花吹雪 岡山 晴彦 縦に横に力強い線で描いたスケッチである。満開の花が視界いっぱいに見えてくる。(椋82号より)
2019 啓蟄 芹を摘む湧き水ゆたかなる津軽 鎌田 美正子 上五を現在終止形で軽く切り、下五を名詞止めで受けて響かせた。流暢で高らかな調べに、強い郷土愛が感じられる句になった。(椋82号より)