2019 啓蟄 芹を摘む湧き水ゆたかなる津軽 鎌田美正子 上五を現在終止形で軽く切り、下五を名詞止めで受けて響かせた。流暢で高らかな調べに、強い郷土愛が感じられる句になった。(椋82号より)
2019 雨水 白梅に夜もいきいきと水の音 柚子谷 イネ 聴覚を生かして、早春の夜の清々しく甘やかな大気を感じさせている。(椋75号より)

2019 立春

春なれや屋形船でもしたてんか 花野 日余子 屋形船を借り切ることを仕立てるともいうわけだが、やはり豪胆な雰囲気が漂うのである。駘蕩たる春の気分が伝わってきた。(椋75号より)
2019 大寒 洛中を雨が霙になり雪に 飯沼 瑤子 「洛中」という言葉に、いにしえの京都へ誘われる思いがする。中七以下の展開がドラマチッックである。「下京や雪つむ上の夜の雨 凡兆」を踏まえたか。(椋81号より)

2019 小寒

哀しみに触らぬやうに冬苺 曳地 義治 冬苺は常緑の苺で冬に実る。作者は、山裾の藪の中に冬苺を見つけ、それを哀しみのようだと感じたのではないか。繊細な句である。(椋81号より)
2018 冬至 高齢の四人となりし初句会 内山 治子 胸の詰まる句である。ささやかだが休むことなく続けている句会。賑やかだっ た頃を懐かしみながら四人顔を合わせることのできたことを感謝している。 (椋81号より)
2018 大雪 短日を灯して書庫のよみがへる 小関 菜都子 「灯り」を点けたら本の背表紙が生き生きと迫ってきた。それを「よみがへる」と表現している。短日の季語が動かないだろう。(椋80号より)
2018 小雪 日が溜まる大根畑の足跡に ふけ としこ 静かな冬の一日をうべなっている。大根も大方収穫されているだろうか。土のくぼみに溜まった日差しの温かさは人の暮らしのぬくもりに重なる。(椋81号より)
2018 立冬 兄弟は多きが良けれ冬に入る 鷲谷 英一郎 親は大変だろうが、年をとったときには、しみじみとこう思うに違いない。離れていても肉親は心の支え。冬を迎える心には特に。(椋80号より)
2018 霜降 猪が出るかもしれぬので先頭 水原 節子 野生動物とは出会い頭が危ない。山道でそんなことを言い合ったのだ。ちょっとした緊張感と山の神秘性。しかし、それがかくのごとき俳句になるとは。 (椋80号より)
2018 寒露 青蜜柑体操服の友だちと 古宮 ひろ子 下五の後に省略がある句。放課後の部活動か何かで分け合って食べた青蜜柑。 (椋73号より)
2018 秋分 水は手を引き寄するもの稲の秋 亀井 千代志 清らかな流れに手を浸すと、まるで引っ張られるように力がかかったのだ。「稲の秋」で豊かな田園の情景が広がってくる。 (椋79号より)
2018 白露 秋水を掬う両手の睦まじく 上條 あきを 自身の右の手と左の手が別の生きもののように睦まじいという不思議な感覚。 掬わんとする水が澄み切っている。 (椋80号より)
2018 処暑 梨食むや内なる川の秘かなる 橘川 昭世 梨のみずみずしさと心の奥底を流れる作者の情感とが、よく響き合っている。「秘かなる」という表現に激しさを感じる。(椋79号より)
2018 立秋 幼子の選ぶスイカを一つ買ふ 松田 康子 幼い子に選ばせた西瓜。子とその祖母だろうか。連れ立って店先に立つ二人の姿が目に浮かんでほほ笑ましい。(椋72号より)
2018 大暑 日盛りや里芋の葉の全方位 古谷 智子 余りの暑さにだらりと葉を下げている様子を、よく描写している。投げ出したような下五の表現がいい。(椋72号より)
2018 小暑 椅子ふたつあれば愉快に青胡桃 岡 みやこ 椅子同士が語らっているかのような面白さ。いるはずの人物は故意に消されている。(椋78号より)
2018 夏至 また今日も夏川を去る別れかな 棚網 かける 何の具体性もないが、妙にドラマティック。夏の終りのさびしさを漠然と感じさせる句である。(椋78号より)
2018 芒種 枇杷の実の下に自転車習ふ人 吉田 信雄 枇杷の実の下と言ったことで、夏の豊かな緑や果実の香気などを感じさせ、新しいことを覚える充実感と響き合った。(椋78号より)
2018 小満 二階へも筍飯をふるまはむ かすみ 二世帯住宅だろうか。「ふるまはむ」に、二階の住人への親しさが感じられ、愛情がにじみ、香り豊かな作品になった。(椋70号より)
2018 立夏 ポケットにコインが一つ更衣 山澤 一帰 何となくポケットに入れて忘れていたコインだろうか。その小さくても確かな重み。夏への期待感としてぴったりだ。(椋77号より)
2018 穀雨 傘立てにいつもある傘春愁 ぱんだ ぽつんと忘れ去られて古ぼけてゆく傘をよく見る。そこに自らの春愁を重ねた。(椋75号より)
2018 清明 対岸もしづかなる昼花菜雨 井上 千恵子 菜の花が一面に咲く頃、春を迎えた安堵が私たちを包み込む。雨の日はなおさら。(椋76号より)
2018 春分 かたはらにゐて欲しき夜の桜かな 山月 随分と素直にいや大胆に言ったものだ。誰に向かって言った言葉なのかは伏せられている。そこが巧み。(椋76号より)