2020 寒露 バックオーライバックオーライ木の実落つ 市川 英一 何だか木の実に「バックオーライ」と声をかけているようにも思えてくるのが面白い。晩秋の明るく澄んだ大気も感じられてくる。(椋86号より)
2020 秋分 窓広く栗の渋皮剝いてゐる 宇野 徳 リビングル-ムでのんびりと渋皮を剝いているのだろう。「窓広く」というあっさりとした描写が見えるものを多くしている。(椋91号より)
2020 白露 金木犀テレビを消せば雨のおと 後閑 達雄 五感が次々と働いている。下五の「雨の音」に作者の心情がうかがわれる。(椋79号より)
2020 処暑 おしろいの花や釣舟仕立てます 山田 澪 おしろいの花は郷愁を誘う親しい花。「釣舟仕立てます」と、看板でも立っていたのだろう。情景が良く浮かんでくる的確な配合。(椋91号より)
2020 立秋 覚えなき写真一葉天の川 中西 碧 なぜここにこんな写真が紛れ込んだのだろうといぶかしむ。少女の頃の写真だろうか。まったく記憶にない自分。天の川の取り合わせがいい。(椋91号より)
2020 大暑 帰る日を何処に帰るのだろう夏 水原 節子 生家に帰省して自宅に戻るときの感慨でもあるだろうし、もっと根源的な思いでもあるかもしれない。夏だからこそそんな思いにとらわれるのだ。(椋90号より)
2020 小暑 図書館にけふもこもりぬ青胡桃 飯沼 瑤子 暑い日中、涼しくて静かな図書館で過ごすことにしているのだろうか。青胡桃の取り合わせがいい。(椋90号より)
2020 夏至 夏燕コリアタウンを翔けにけり 真鍋 千枝子 すっきりした句。コリアタウンという響きが明るく、燕の往き交う町の活気が伝わってくる。(椋89号より)
2020 芒種 人去りてガーベラふいに回りけり 味八木 恭子 頭の重いガーベラは、かすかな空気の動きに花生けの中で回ったのだろう。あまるでグラスに差したストローのように。都会的な詩情。(椋90号より)

2020 小満

窓一つ残して花舗の蔦青し ぱんだ 蔦に覆われた花舗。整えすぎぬセンスの良さを想像させる。巧みな写生と言えるのではないか。(椋89号より)
2020 立夏 雨傘にをさまるからだ薔薇を見る 瀬名 杏香 やや硬質な叙情。傘に隠れるような心持ちだろうか。繊細さを感じさせた句だ。(椋88号より)
2020 穀雨 明け方の月まどかなる穀雨かな 立本 美知代 穀雨という季語の使い方は難しい。雨のことではなく、二十四節気の一つで晩春の時候の季語だ。まどかな朝の月が穀雨とよく響き合う。(椋88号より)
2020 清明 風車吹くひと色となるふたり 白石 正人 風車は回れば色がまざり合って一つになる。そのことと二人の人物の睦まじい様子とを重ね合わせている。句またがりの調べがいい。(椋88号より)
2020 春分 桜蕊降れば泪をふく男 佐々木ヒロシ どういうことなのか。まったく関連のないことなのだが、印象に残った句である。花過ぎの感傷に浸っているのは若くない男に違いない。(椋82号より)
2020 啓蟄 さらさらと葉蘭に雪やお白酒 藤井 紀子 思わぬ降りとなった春の雪が葉蘭を滑り落ちる。さり気なく美しい情景で、雛祭の頃の変わりやすい気象が思われる。(椋88号より)
2020 雨水 花種を蒔いてどこにでも行ける 岡 みやこ するべき事を終えて、あとは待つだけ。そんな心の軽さが伝わってきた。(椋81号より)
2020 立春 少しづつ蕾を割りて梅ひらく 曳地 義治 平凡なようでいて、よく見ると「蕾の割れて」ではなく「蕾を割りて」と表現している。それも「少しづつ」だ。そこに早春の息吹と、梅の木の力強さを感じて印象に残った句である。(椋87号より)
2020 大寒 距離おくといふこと水仙を隔て 藤井 あかり 一句の緊迫した調べが、作者の複雑な心情を伝えてくる。硬質な表現を生かしつつ、水仙のかぐわしさに女性らしさがにじんだ。(椋58号より)
2020 小寒 蠟梅を見むとおほかた男坂 佐々木ヒロシ 蠟梅が咲くともう春が近い。それだけに見つければ嬉しく、香りにも惹かれるのだが、近づこうとすると息の切れること。(椋87号より)
2019 冬至 ガレージを開けクリスマスマーケット ぱんだ ガレージのシャッターをがらがらあける音が聞こえるようだ。生き生きと立ち回る人たちが想像される。(椋86号より)
2019  大雪 榾燃えて両肘椅子と丸太椅子 村上 紀子 暖炉のある部屋にまちまちの椅子が置いてある。それぞれが好きなようにくつろぐ時間。そんな心楽しさが伝わってくる。(椋86号より)
2019 小雪 くさめして淋しき人となりにけり 福田 鬼晶 思いきりくしゃみをしたものの、それを笑う人も心配する人もいない。そんなぼやきが聞こえそうな句だ。単純素朴な表現がむしろ効果的である。(椋88号より)

2019 立冬

つれあひと呼ぶ人ありて冬ぬくし くろす ようこ 「つれあひ」は「相棒」のようなもの。苦楽をともにしてきた実感がこもる。何げなく使っている言葉に思わず立ち止まった瞬間。(椋87号より)
2019 霜降 鍵盤のラの音放つ茸かな 山月 ラという音階とイコールではないが、「ラ」と発声するとき開放的な感じがすることと、ピアノの弾き出す音と茸の生え方の唐突なイメージがよく響きあって楽しい句になっている。(椋85号より)