2018 夏至 また今日も夏川を去る別れかな 棚網 かける 何の具体性もないが、妙にドラマティック。夏の終りのさびしさを漠然と感じさせる句である。(椋78号より)
2018 芒種 枇杷の実の下に自転車習ふ人 吉田 信雄 枇杷の実の下と言ったことで、夏の豊かな緑や果実の香気などを感じさせ、新しいことを覚える充実感と響き合った。(椋78号より)
2018 小満 二階へも筍飯をふるまはむ かすみ 二世帯住宅だろうか。「ふるまはむ」に、二階の住人への親しさが感じられ、愛情がにじみ、香り豊かな作品になった。(椋70号より)
2018 立夏 ポケットにコインが一つ更衣 山澤 一帰 何となくポケットに入れて忘れていたコインだろうか。その小さくても確かな重み。夏への期待感としてぴったりだ。(椋77号より)
2018 穀雨 傘立てにいつもある傘春愁 ぱんだ ぽつんと忘れ去られて古ぼけてゆく傘をよく見る。そこに自らの春愁を重ねた。(椋75号より)
2018 清明 対岸もしづかなる昼花菜雨 井上 千恵子 菜の花が一面に咲く頃、春を迎えた安堵が私たちを包み込む。雨の日はなおさら。(椋76号より)
2018 春分 かたはらにゐて欲しき夜の桜かな 山月 随分と素直にいや大胆に言ったものだ。誰に向かって言った言葉なのかは伏せられている。そこが巧み。(椋76号より)
2018 啓蟄 蓬摘む癒えてときをり笑む人と 林田 裕章 これは一つの物語である。その語り口が巧い。病が癒えた人の表情だけでなく、作者自身の深い眼差しが感じられる。(椋76号より)
2018 雨水 君子蘭鏡の国で髪を切る 近藤 千津子 シクラメンと鏡との取り合わせで有名句もあるが、これは美容院の情景なのだろう。「鏡の国」としたのが面白く、また春らしい。(椋75号より)
2018 立春 みつつ鳴きひとつ綺麗な初音かな 太田 玲子 まだ鳴き始めの鶯に耳を傾けていたのだろう。ああ、今のが一番きれいに鳴いたと感じ入った。春の到来を実感した瞬間であるのだろう。(椋76号より)
2018 大寒 古九谷の緑増したり雪あかり くろす ようこ 雪の白さにいろいろなものが黒ずんで見える。その中で古い陶器の彩色が息を吹き返したように力強い。手から手へ受け継がれてきたゆえんだろう。(椋63号より)
2018 小寒 竜の玉夢を聞かれて淋しかり 星野 梨子 どんな夢を見たのかと問われてふと淋しさがよみがえる。貴石のような竜の玉にその心持ちを託した。(椋75号より)
2017 冬至 居心地の良き片隅や竜の玉 あきを 自画像ととってよいだろうか。句会でお会いするあきをさんは物静かな方だ。促されなければ一言も発しないだろう。しかし確とした存在感がある。(椋75号より)
2017 大雪 極月の月命日は晴れにけり 石田 京愛 肉親を失った年も暮れてゆく。雨でも雪でも曇り空でもなく、抜けるような青空が哀しみを伝えてくる。(椋75号より)
2017 小雪 つはぶきや先に来てゐる人の傘 せいじ せいじさんは物に語らせるのが巧みな作者だ。畳んだばかりの濡れた傘、その傍らの石蕗の花。それだけで静かな家の佇まいや人の気配が感じられてくる。(椋69号より)
2017 立冬 しぐるるや急げいそぐな夕間暮れ 大須賀たけし 短日の帰り道、急ぎがちになる歩みに自分で「いそぐな」と声をかける。心の中のその声が聞こえてくるようだ。(椋75号より)
2017 霜降 弁当の輪ゴムが二つ暮の秋 小林 木造 惣菜屋さんで買った手作り弁当に輪ゴムやホッチキスでとめてあることが多い、「二つ」などというどうでもいい事実の即物性と「暮の秋」のさびしさが絶妙に響き合っている。(椋74号より)
2017 寒露 山芋の蔓が空まで日暮れまで 市川 英一 思いがけないほど高いところまで蔓を伸ばした山芋。「空まで」と言った後に「日暮まで」と畳みかけたことで余情が出た。(椋73号より)
2017 秋分 破芭蕉ノート鉛筆忘れ来て くろす ようこ 肝心なものを忘れてきてしまった。かすかに苦い思いが「破芭蕉」に感じられた。(椋73号より)
2017 白露 撫子に心覚えのふた処 柴田幾多郎 撫子の花の群落地を作者は知っているのだろう。そこに見に行くのを密かに楽しみにしていることだろう。(椋73号より)
2017 処暑 フェラーリの咆哮九月来たりける 森 木精 スポーツカーの本領を発揮する回転に達したエンジン音。晩夏の気分を引きずっていた八月も、目の覚めるような真っ赤なイタリア車とともに去ってしまった。(椋72号より)
2017 立秋 階段の上に自転車蓼の花 天川  良美 集合住宅でよく見かける光景。蓼の花の取り合わせには慎ましやかな暮らしぶりがうかがわれる。(椋72号より)
2017 大暑 店先によき石垣やラムネ飲む 小関 菜都子 日用雑貨から氷菓子まで何でも商っている店を想像した。背景は緑の濃い杉山や青田。農家の庭先には立葵が咲いているなどと。(椋65号より)
2017 小暑 射干のやむなき色を尽くしけり 田野 いなご やむなき色とは言い得て妙。盛夏の色としかいいようのない朱色。色を尽くして夏も果てようとしている。(椋59号より)